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仙台高等裁判所 昭和30年(ネ)369号 判決

控訴人 池田省治郎

被控訴人 辻山絹子

主文

原判決中財産分与に関する部分を取消し、右部分を盛岡家庭裁判所に移送する。

原判決中控訴人に対し物品引渡を命じた部分を次のとおり変更する。

控訴人は被控訴人に対し別紙〈省略〉物件目録記載の(一)、(三)の物品全部と(二)のうち3、9、11、12、13、15、16、17、42、47の物品を引渡せ。

控訴人が右各物品中引渡しのできないものがあれげその別紙物件目録当該物件の下欄記載の各価格に相当する金員を被控訴人に支払え。

被控訴人その余の請求を棄却する。

訴訟費用中物件引渡について生じた部分は第一、二審を通じてこれを三分し、その一を被控訴人、その余を控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決中控訴人敗訴の部分を取消す、被控訴人の請求を棄却する、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。当事者双方の事実上の主張及び証拠の提出、援用、認否は、〈証拠省略〉原判決事実摘示と同一であるからこれを援用する。

理由

まず、被控訴人の本件財産分与請求の訴について原審が管轄権を有するかどうかの点について考えてみると、民法第七七一条、第七六八条に規定する財産分与請求は家事審判法第九条、第一七条、家事審判規則第五六条、第五六条の二の規定によつて明らかなように家庭裁判所の専属管轄に属し、ただ人事訴訟手続法第一五条により離婚の訴と同時にする場合においてのみ、地方裁判所でこれを裁判することができるにすぎないものであるところ、本件が離婚後の請求に係るものであることは弁論の趣旨に徴して明らかであるから、原審は本件財産分与の請求につき管轄権を有しないものといわなければならない。したがつて右請求に関する被控訴人の本件訴は却下しなければならないもののようであるが、右請求は民法第七六八条第二項によつて離婚後二年を経過したときはこれを裁判所で処理してもらうことはできないのであるから本件(離婚届出が昭和二五年三月六日であることは甲第一号証で明らかである)でこれを却下するとすれば被控訴人はもはや右請求につき協議に代る処分を裁判所に求めることができなくなるわけである。

ところで、管轄違いの裁判所に提起された訴の移送については、通常の訴訟につき民事訴訟法第三〇条に、家事審判事件につき家事審判規則第四条にそれぞれ規定があるが、本件のように家事審判事件が訴訟事件として地方裁判所に提起された場合については民事訴訟法及び家事審判法上なんら規定するところがないから本件を移送することもできないように一応考えられる。しかし、(1) 調停事件については、民事調停法第四条、家事審判規則第一二九条の二は、地方裁判所が家庭裁判所に、また家庭裁判所が地方裁判所に、これを移送しなければならないこと、また移送することができること、を明定している。右両条が、いずれも当事者の費用の軽減や便益を図り、速かに権利の保護を与えようとする法意を示すものであることが明らかである。(2) ことに地方裁判所が家事審判法第九条乙類にあげる事項について調停の申立を受けた場合には、移送を受けた家庭裁判所は、これを審判事件として処理することもあるのであるから、地方裁判所は、結果において審判事件を家庭裁判所に移送したとえらぶところがない。(3) 財産分与は、その請求の時期に制限があり、また扶養は、これを請求した以後の分についてのみ理由あるものである。もしこれらの権利者が誤つて地方裁判所に提訴した場合に、これを無効とするときは、権利者にも過失があつたとはいえ、ときに全然救済の途をたたれ、またはいちじるしい不利益を被ることになつて、権利の保護を全からしめようとする法意に反する結果を招くことになる。以上の諸点に考え、審判事件が訴として地方裁判所に提起されたときは、地方裁判所は、民事訴訟法第三〇条、民事調停法第四条の規定を類推しこれを管轄家庭裁判所に移送しなければならないものと解するを妥当とする。もつとも、家事審判規則第一九条第二項で高等裁判所が家庭裁判所の審判に代る裁判をすることのできる場合もあるけれども、これは抗告審としての裁判で、本件のように第一審を欠く場合にはあてはまらない。

以上の次第で、当裁判所は被控訴人の本訴中財産分与請求に関する部分についてした原判決を取消し、この部分を管轄裁判所である盛岡家庭裁判所に移送することとする。

次に被控訴人の本訴物件引渡請求について判断するに、別紙物件目録(一)記載の物品が被控訴人の所有に属することは原審証人辻山修平(第一回)の証言及びこれによつて成立を認め得る甲第四号証の一ないし三、第五号証によつてこれを認めることができ、同(二)記載の物品中3、9、11、12、13、15、16、17、42、47が被控訴人の所有に層することは原審証人池田マツの証言によつてこれを認めることができ、同(三)記載の物品が被控訴人の所有に属すること及び以上被控訴人の所有物と認定した各物品を被控訴人が控訴人と離婚後控訴人方に残しおいてきたものであることについては当裁判所も原審とその事実認定及び法律判断を同じくするから原判決理由中この点に関する部分を引用する。(控訴人が当審で新しく提出した全立証を以てしても右認定を覆すに足らない)

したがつて、控訴人は被控訴人に対してその所有に属する右物品を引渡すべき義務あることは明らかである。そしてこれら物品の現在の価格が少くとも別紙物件目録に記載したものであることは原審における鑑定人郷右近東吉(同鑑定人の分は昭和二五年九月末日現在で、目録(一)のうち5、6、8、9、19ないし21、23ないし30、32、33、35、37ないし39、(二)のうち3、9、12、13、16、17、42、47及び(三)の物品の価格はこれによる)、当審の鑑定人小沢新次の各鑑定結果によつてこれを認めることができるから、(ただし(一)の1、8、24、25、27、28、29、30、35、37、(二)の17、(三)の1、7、の各金額は、右鑑定価格の範囲内である被控訴人の主張した金額である。)控訴人は被控訴人に対して引渡すことのできない物品については各その価格に相当する金員を支払う義務があるものといわなければならない。

被控訴人の請求する引渡物品中右以外の分に関するものが被控訴人の所有物であることについてはこれに添う原審での証人辻山修平(第一回)及び被控訴本人の各供述部分はこれを信用することができず他に右主張事実を認めしめるに足る証拠がないから被控訴人の物品引渡の請求、引渡不能の場合の金員支払請求は、右認定の限度においては正当であるがその余は失当なものとして棄却を免れない。

したがつて、これと異る原判決を変更すべきものとし、民訴法三八六条、九六条、八九条、九二条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 斎藤規矩三 沼尻芳孝 羽染徳次)

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